ナンバ歩き 06/23/2006
ナンバ歩きは古武術の甲野善紀氏が発見、広められた言葉で、江戸時代の人々の歩き方だということです。簡単にいうと、右足が前に出るときに右腕も前に出る。左足が前に出るときには左腕も前に振れるということのようです。江戸時代の屏風や絵画などを見ていて、現代人と歩き方が違うと気付いたそうです。
現代人は手足を交互に出して歩く。右足が前に出るときは左腕が前に出る。左足が出るときは右腕が前に出る。周りを見渡しても同じ歩き方ばかりなので、異なる歩き方があるとは思えない。ナンバ歩きの紹介は衝撃だった。
実際にやってみるとナンバ歩きはできるものじゃない。右足と右腕を同時に前に出すのは違和感が大きすぎる。意識して練習すれば慣れるかなと思ったけれど全くものにならない。ものにしたとしても得るものが何かあるのかどうか。歩き方が気になって落ち着きがなくなるくらいの変化はあるが。関連の本を読んでも、これがナンバ歩きだと銘打った見出しはあれど、中身はさっぱり説明できてない代物ばかりだった。
しかし江戸時代というのは剣術柔術をはじめとしてほとんどの国民が武術を嗜み、生きるためには大小の使い方は常識だった。内燃外燃機関はないから移動手段は徒歩か走りだった。飛脚などは想像もできない速さで全国を飛び回っていた。出発到着が記録されるから速かった事実がわかる。健康力が頂点に達していたのが江戸時代人だった。咸臨丸の乗組員の写真を見ると、全員姿勢が良い、面構えに鍛え抜かれた身心の気迫が溢れている。彼らの歩き方がナンバ歩きだというのです。
最高の歩き方がナンバ歩きだとは云える。しかしその実践はというと絵画に残っているくらいで、専門家の文章も全く的を得ないし、自ら練習するにも手がかりがない。知恵でも宝物でも、忘却とはこういうことなのか。復元すらできないほど吾々は貴重な江戸時代の知恵と力を失ってしまった。
真向法という伝統的な柔軟体操がある。中学生の時見ただけだったが、五十路で運動に興味を持ち出し調べて見た。実践している方は少なくない。基本的には四つの姿勢を繰り返し練習する。初心者にはもちろん難しい。開脚してお腹が床につくまで曲げるのが股割りで、一年でできるだろうと云われた。やってみると一年四ヶ月かかった。私の体は固かった。それでもできるようになったのは練習方法が確立されていたからで、伝統文化はありがたい。
真向法をした後で気がついたのは、歩く時腿がスッと前に出ること。考える前に太腿が前に出る。あるいは、立つ姿勢より歩く方が楽になる。地面を這うのでなくジャンプする歩き方になる。怠け者は動かずに立ったり座ったりしているけれど、働き者は動き回る。体が動くのが自然で楽しい。真向法の実践は怠惰と勤勉との分かれ目になりうる。
以上から推測できること。ナンバ歩きは右腕と右足の同時運進と考えたけれど、腕の質量と重量は脚に比べて歩くときは無視できるくらいに小さい。腕は後からついてくる。肝心なことは太腿がグイグイ前に出ること。働き者の江戸人にとっては、真向法も含めて、動き回ることが自然で楽しかった。その動き方を外から見たら体幹に腕がついていくように見えた。ナンバ歩きだった。
注:千代の富士関の股割り以外は危険で、専門書も怪しいと考えています。