肩(4) 04/28/2008
あの元旦に教えてもらった首のストレッチを続けた。言われた通り左右だけでなく前後にも首を曲げた。要点は力を入れないことである。力を入れると変なくせがつく。二十数えて三回終わったところで首をぐるぐる回す。誰でもする運動だが、あれっと思った。それまではいつも聞こえていたコリコリという音がしない。何十年も同じ音が聞こえていたのだが、あの音が消えた。
コリコリの音は固体と固体が当たって出る。首にある固体は骨だけである。骨と骨とが当たっていたのだ。固体と固体が当たれば傷がつく。身体が傷つくのは外であれ内であれ健全であるはずはない。だから骨を守るために軟骨がある。けれども軟骨があってもコリコリしていた。
想像するに、首を構成している筋肉や腱が伸びたのであろう。それで骨と軟骨が中空に浮くことになった。だから摩擦も衝突もなくなった。これがストレッチ(伸ばす)の意味だと悟った。世にはストレッチと称するいろいろな運動があるけれども、それまでは型をなぞっていただけだった。本当は特定の筋肉をどれだけ伸ばすかという計算までして運動すべきだったのだ。
筋肉は瞬間的に伸びるだけでなく静的状態でも伸びる。特に関節部分は伸張することを考えてトレーニングすべきだろう。一般的な運動に関する教科書では、収縮力を増すために筋肉を太く強くすることばかり説明する。これでは事柄の反面しか語っていない。かえって美容体操の雑誌などに重要な情報が載っている。正しい動き方を身につけるには、筋肉の伸張と収縮をバランスよく実践することが肝心のようだ。
アメリカに絞首刑がないのは、あるプロレスラーが、絞首刑になっても死なないと公言したからだという。よくある売名行為かと放っていたら、どうも本気らしいとわかってきた。同意の上で実際に吊るしたという。首の筋肉が太く鍛え上げられていたのだろう、彼は死ななかった。そこで死刑には確実に死ぬ方法が新たに採用された。現在の薬物注入だ。法を公正に執行するためには例外は許されないということだ。これは少年雑誌から得た知識なので、中学生の頃知ったと思う。それ以来、首の筋肉を鍛える方法はあるだろうと思っていた。
初代若乃花はうっちゃりの名人だった。今も目に焼き付いている写真があるが、それは松登にのど輪で攻められている場面だ。背骨が弓なりになっている。周りはハラハラしている。実際はそれほど追い詰められていなかった、というのは、背筋が伸びているせいでのど輪が効いていなかった。若乃花は頃合いを見て右か左にうっちゃる余裕があった。脊椎は小さな骨と軟骨が重なってできている。軟骨の力は侮れない。
軟骨を英語では disc と書く。意味は薄い板である。医者の間でも、骨や筋肉については詳しいのに、軟骨は軽視されているような感じがする。解剖図を見ても、軟骨図というのは見たことがない。骨格や筋肉は詳細に説明されるのだが。視野に入っていないためか、知識も少なく大切にしようとする気持ちも起こらない。悪くなれば人工の板をはめ込めばいいと思っている人が多い。