中半身(2)

 

中半身(2)            01/05/2009

話のタネにボストンマラソンを一度見ておかなければと思い立って出かけたことがあった。沿道に並んでいると、女子選手の先頭者が走ってきた。東欧の人だろうが、上下動が少ない。脚をくるくる車輪のように回していた。大地に張り付いて走っている印象で、腸骨の位置、つまり腰だが、腰の高さが固定して歩幅も一定だ。ピッチ走法と言うのだろうか。脚の回転数で勝負している。迫力は感じなかった。というのも外から見て次の一歩の動きが予測できた。意外性がない。
次にケニヤ勢の男性先頭集団がやってきた。一足ごとに跳ぶ様に走り、あっという間に去っていった。ジャンプしながら走るから上下動が大きい。大きな動きが迫力を産む。世界の一流選手の走りは、馬がドドドっと駆けるみたいだった。
彼らは中半身、第一腰椎から走っていた。細い脚なのにグングン加速できる。痩せているのも好条件だ。腰腸筋からのパワーが無駄なく伝わる。
みぞおちのすぐ下から右脚を前方にまっすぐ伸ばしてみる。すると腸骨の角度が変わり位置も前に進む。このアイデアだけで歩幅がぐっと広くなる。ジャンプするとき反対の腸骨の角度も変わる。動くポイントを数え上げてすべての要素を組み合わせると走りのスピードが早くなるはずだ。野口みずき選手の走り方に近かった。
バレエの教科書を読むと、誤った指導法の一つの例として下半身の鍛錬を強調しすぎることとあった。バレエは高さと速さと柔らかさの芸術と思っていたので意表を突かれた。どこでも行き過ぎがあったり半端な思い込みがあったりする。それはまた身体の動き方が無限で、研究すればするほど精妙にして合理的な動き方が見出されるということでもある。
’白鳥の湖’ では鳥のようにジャンプする場面がある。フワーッと舞い上がってフワーッと着水する。実際の白鳥は羽根面積に対して体重が重いので飛び上がるとき必死でばたつく。真似するダンサーの方がより優雅に見える。
優雅な着水をどのように練習するのかと思っていたら、先生は、まず音を立てないで着地するように指示していた。それには膝や足首の柔らかさが必要になる。それでも何十回も練習すれば関節を痛める確率は高い。全体重が膝と足首にかかる。
安全で軽く着地するコツはないのかと質問してみた。足裏の使い方や膝の衝撃の吸収方法を知りたかった。すると人形劇のように天井から吊り上げられて上昇するのだという。吊り上げられると軽くなる。ふわっと上がれる。長い助走なしに跳び上がれるのは足裏のはずみに加えて天井からの助力があったのだ。
先生は’ のイメージを持って。。’とか’ 吊り上げられる気持ちで。。。’といったわけではない。バレリーナにとっては天井からのロープが実在するのだ。その存在に確信が持てないようでは舞台で舞い上がることはできない。重力だけでなく浮力も感じ取るから優雅な躍動美が産まれるのだろう。吊り上げられる人の中心点は重心であるとともに浮心でもある。
バレエではまた片足で立って回転する舞がある。回転するだけで万雷の拍手が起こる。その要領を聞くと、みぞおちの奥に重心があると想定して回転するのだという。改めて映画を見直すと、腰を中心にした回転ではない。重心を高くみぞおちまで持ってくるから華麗に回れる。そこは第一腰椎が在る位置だ。重心、浮心、身体の中心はみぞおちの近く、第一腰椎のようだ。
身体の柔軟さが瞠目するほどの人が多いのもバレエだ。上体を直角に曲げて舞っている映画もある。ところが教科書では、脊椎を反り返るように曲げてはならないと書いてある。理由は、脊椎を曲げると軟骨を損傷するし脚も曲がるからだという。それはそうだろう。折ったり曲げたりすると軟骨は毀傷する恐れが高い。なぜ曲芸人のように背骨を湾曲できるのだろうか。
答えは、’曲げるのではなく尾てい骨から背骨を押し上げる’ のだという。曲げるではなく押し上げて伸ばす!曲がるのは脊椎の前後の伸び率の差による。押し上げるなら腰の下部から頭のてっぺんまで脊椎は伸びているし、軟骨に無理な力は掛かっていない。曲げると伸ばすでは実際の意味はまったく違う。押し上げるはもっと安全で高度な動き方になる。
バレエの芸術性に眼を向けると、脊椎が順にせり上がっているだけと解釈するのは十分ではない。頭の先端から光がほとばしるような表現ができてはじめて美が創造される。
立って意識的に尾てい骨から脊椎を押し上げてみる。腹は引っ込める。すると重心が高くなる。その姿勢で歩くと足が楽に上がる。身体が軽くなる。筋肉の動き方も変わってくる。立、座、歩が以前に比べて軽くできる。楽で快いから動きたくなる。この方法で軽い腰痛が治ってしまった。
タップダンスの映画は多いが、フレッド アステアとジーン ケリーが銀幕の代表的なダンサーだった。二人とも家族がダンス教室を経営していた。子供の時からダンスが日常生活だった。二人とも戦前から、今でも知られる映画に出演し監督もした。映画の成功がダンス教室のビジネスを広めることにもなった。
二人の映画を比べると個性の違いがはっきりわかる。アステアははじめバレエを習ったそうである。優雅なダンスや仕草の上にタップダンスを加えた。重心が高いというよりも浮力で踊っている感じで軽々と動き回る。撮影前の練習はすごかった。そして撮影はカット割りではなく一曲通して踊った。傑作揃いだ。
ケリーの踊りの特徴は重心が低い。無理に腰を落としてタップする。どこか不自然だ。代表作もいくつかあって映画作品で世に貢献した。しかし70代になると車椅子生活になった。ダンスしすぎて足腰が立たなくなった。下半身を使いすぎたのだろう。中半身で踊れば楽に生きれたのではないかと思う。

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