糖病記(1)

糖病記(1)       02/17/2019

2018年九月九日、日曜日は接心中だった。午前中坐っていると右腕が突然締め付けられて冷たくなった。何かがおかしい。坐禅を切り上げて参禅者に参考意見を聞くことにした。お茶を入れようとすると手が震えて茶碗が持てない。すぐに救急病院へ行くことに決まり、運転してもらった。自分で運転する自信はなかった。
病院では血圧と血液の検査があり、血糖値が315で糖尿病と言われた。平均値は150だそうで、異常を認めざるを得なかった。一泊して様子を見ることになり、右足、右顔面、発声、瞳孔、握力や腕の力などを試された。看護婦が交代するごとに同じ質問が繰り返され記録に取られる。対応がマニュアル化されている。
周囲の騒ぎとは裏腹に、リンゲル液が注入され始めると不快感はスーッと消え去り、震えもなくなり血糖値も170に下がった。いつでも退院できる状態になった。ひどい時は半身不随になる。軽症で幸運だった。
CT スキャンと心電図は異常なかった。翌朝の MRI 検査で Stroke と診断された。頸動脈内に血瘤が写っていた。年取って動脈が狭くなったと解釈できる。日本語では脳卒中であろう。Aspirin, Lipitor と血瘤を溶かす薬 Clopidogrel をもらって帰った。

薬の効果は抜群で、一年間何となくすぐれなかった気分がシャンとなった。視力が回復し気力も回復した。ふだん薬を飲まないから余計効くのかもしれない。効きすぎるのではないかと不安になった。頭は冴えるが考える気にならないのは薬の限界か。
ときどき頭がフラーっとなる気がした。気のせいかどうかわからない、病気中かもしれない。膝がカクンと力を失う感覚もあった、小さな小さな後遺症だろうか。事故は起こさなかったが用心することにし、重いリュックを背負って速歩すると決めた。
2マイル先にバス停があるので坂道を下る。街まで行って小さな用事を済ませ、リュックを満杯にしてバス停から登り坂を歩く。合計3時間ほど、週一回は歩いた。クルマ文明の行き着く先にきてしまった。生きるためには歩くしかない。
退院して一週間後チェーンソーの研ぎ師にあったついで、Stroke で病院へ行ったと言ったら、
「俺の親父はひどい Stroke で頚動脈の内側を掃除した」とのこと。それが死因か聞くと、
「Strokeは治った。二年前に死んだが、癌だった。」
Stroke はありふれた病気で、一昔前は死因の上位だった。半身不随で十年以上苦しんだ人も多かった。今の自分は医学の進歩の恩恵を受けている。
九十日で薬が切れた。薬断ちで二週間ほど過ごして血液検査の後、十二月十九日に主治医に会った。糖尿病だからと新薬を勧め長々と説明する。運動も食事療養も大切だが、新薬は血糖値を下げるという。糖尿病だから血糖値が高いという見方だ。
新薬は拒否した。血糖値は生体が決める、特に肝臓の役割が大きい。コレステロールも肝臓がコントロールするので似ているが、人工的に血糖値をを抑圧するのは肝臓を攻撃することに等しい。本当の病人になってしまう。酒が飲めないくらい弱い肝臓がますます弱くなる。肝臓の重要な機能の一つは解毒作用である。全ての薬は毒でもある。解毒作用も抑圧される。
医者と喧嘩ばかりで済むわけもないし不安でもある、Aspirin と Clopidogrel を買って帰宅し、三日に一回飲むことにした。アメリカ人は三倍の質量だから、小さい体には三分の一の服用が適当だろう。
二日後に気分が悪くなりまた発作かと疑った。どうやら病院で風邪をうつされたらしく、大事には至らなかった。その頃からめまいはしなくなり、完治したという手応えを感じた。四ヶ月かかった。

思い返してみると、前の年一年間は気分の優れない日が多かった。曇天が多く小雨の日が続いた。カラッと晴れた日と乾いた空気が特徴だった天候が、紳士がいつも傘を持って歩くロンドンのような気象に変わった。地球温暖化の影響と思われる。鬱になり運動量が減った。
三月のある日、地下室で薪を割っていると軽いめまいがした。手すりを伝ってソファーにたどり着き一時間ばかり座った。怖くて立ち上がれない、どこか気分が悪い。気分の悪さは一週間ほど続いたが快方に向かった。そして明るい春を迎えめまいも気分も忘れ外で働くようになった。
気分の悪さの質が同じなので、半年かけて症状が進んだということであろう。三月に病院へ行っても、気分が良くなる薬を処方されて終わりだったであろう。それほど軽症だった。病気も外見から症状が見分けられるくらい悪化する方が本人も周囲も納得できるというところがある。
春も夏も曇天と小雨が続いた。外の作業は計画通り進まない、イライラが募った。なぜかアイスクリームが欲しくなり、三十年食べなかったのに大量に買って食べた。蒸し暑い時にはオレンジジュースやりんごジュースをがぶ飲みした。果物だから体に良いと思ったのだが、これら三者には砂糖が大量に入っていた。砂糖が九月の発作を引き起こした主要原因ではないかと思われる。

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