糖病記(4)

糖病記(4)

2019年六月三日は月曜日だった。快晴で早朝バス停まで歩き、正午過ぎに帰宅した。家の近くまで来た時隣家の婦人が車で通りかかり、家の裏に倒れた木を伐ってくれと言った。困っているならと二つ返事で引き受けた。
現場は二、三本の大きな枝が絡み合って落ちていた。複雑な倒木をほぐしながらの作業に思いのほか時間がかかった。七時頃チェーンソーで最後の木切れを切った時左足に鈍痛を感じた。赤い血が流れ出したがあまり痛くない。急いで木々を積み上げて仕事を終え、道具類を片付けた。
汚れた靴のまま一人で車を運転して救急病院へ行った。傷は浅かった、動脈や神経は切れていない。最初に観た看護婦は二時間くらいで帰れますと言った。
足のX線写真を見ると、僅かだが骨が削られて、三、四個の骨片が周りの肉に飛び散っていた。チェーンソーは油まみれだし汚い作業靴にはどんな細菌が付いているかわからない。万全を期すため、足はきれいに洗浄し、壊れた皮膚は取り除かれた。手術は真夜中に全身麻酔下一時間半で、四針縫って終わった。皮膚が切り取られた部分は再生まで時間がかかる。二時間が病院に二泊滞在となった。

手術前に病状と経過の説明が行われたのだが、前年九月九日の Stroke が持ち出され、糖尿病だと決めつける。その時は血糖値315で標準値は150と言われた。今回は190ほどだったが、標準値は120だという。
数値がおかしいと言ったら英語がわからないんだろうと勝手に通訳(インターネット経由)番組を持ち出した。こちらは言葉の問題はないが、通訳の高圧的な態度にムカついた。「お前は糖尿病だ、血糖値をみろ回復が長引く、感染しやすい、足首切断になるぞ。」といった脅し文句の羅列を聞いた。
その時国連の方から来ましたといって、偉そうに慰安婦がどうたら人権がどうたら言いがかりをつける人種のことを思い出した。理不尽を押し付けるサヨクどもで不快でしかない。一番腹立たしいのは嘘っぱちを押し付ける厚かましさで、同じ匂いがプンプンした。日本に英語教育を押し付ける輩も同じような発想だろう。”安倍晋三よしっかりしろ。”の声に加わりたかった。
それから執刀医が現れて、血糖値ではなく HB A1C が問題だという。HB はヘモグロビン、赤血球のこと。赤血球と血中のブドウ糖がくっついて大きな固まりができるのが問題だという。その数値は生涯で取得する炭水化物、つまり血糖の総計によるという。だから血糖値を頻繁に測るのは意味がない。
成人の平均 HB A1C 値は7で、お前のは13だ、危険水準にある。手術してもなかなか治らないだろう。その間に感染症にかかると再手術、その時は太ももから肉や皮膚を移植することになる。最悪の場合足首切断だと新しい脅迫だった。切り傷よりも高血糖値を理由に抗生物質の注入や投薬が続けられた。
退院した後服用する薬を処方された。血糖降下剤で、処方した医師は HB A1C と黒板に書いて、平均数値は6、あなたのは10.6だから薬を飲むようにと言われた。
7と6、13.0と10.6、正しいのはどちら?簡単には変動しない数値だと言いながら、四十八時間での数値の開きはなんなのか。釈然としない思いを抱えて病院を後にした。

天皇の祈り(1)

天皇の祈り(1)     05/20/2011

平成二十三年三月十一日(2011)、東日本大震災が発生した。大津波、原子力発電所の事故が続いた。M9.0と正式発表されたが、千年に一度の大地震だった。アメリカのマスコミも連日トップ記事で報道した。日本が無くなるかもしれないほどの危機感が生まれ、アメリカ軍も救助に駆けつけた。ロ中韓は軍隊を移動させて侵攻の機会を窺ったとされる。
三月末のある夜、YAHOOのホームページに汚い金庫の写真が載り、被災地近くの警察に届けられた金庫群と説明があった。写真をクリックすると説明が続き、数百個の金庫が警察に届けられた、遺失物保管場所だけでは足りなくなり、別室に山積みされて居るという。落し物がなぜニュースになるんだろうと不審になって下方にスクロールすると書き込みがあった。視聴者が感想を書き込める仕組みになっていることを知った。五百件ほどの書き込みがあり、面白くなって読み始めた。

* 金庫を警察に預けるなんて気が狂っている。警察が盗ってしまうじゃないか。
* 所有者名無しの封筒に入った現金まで届けられている。信じられない。
* カトリナハリケーンの時警察に預けられた金庫は何件あったか知ってるかい。0件だったよ。
* 日本人が現金を身近に置いておくのは社会の仕組みが違うのじゃないだろうか。アメリカ人はカードを使うから現金を持っていない。
* 金庫(SAFE) が預けられるということは少なくとも安全 (SAFE) なところね。私も日本に移住したい。
* しまった!三陸海岸の救援隊に志願しなかったのは一生の不覚だった。
* 日本人も銀行を信用していないってことさ。
* アメリカなら二万五千人の被災者が出た後で、海岸に暴動で五万人の死者が横たわっているだろう。
* アメリカだって道徳性は高いさ。ただカトリナハリケーン(ニューオーリーンズ)の時は貧困地域だったから恥を晒した。
* 写っている金庫のうち緑と赤は私のものよ。
* 十五個のうち九個はオレのものなんだけどな。
* 死亡した人も多いだろう。どんなにして持ち主を探すのだろうか。
* 半年経ったら届け主のものになるそうだ。
* アメリカにも同じような法律はあるのよ。違いは途中で盗られること。
* 災害復興の資金は金庫に眠っている。復興はまちがいなしだ。
* なぜ日本がなんとなく上手くやっていくのか不思議だったが、謎が解けた。
* Rising Sun! 素晴らしい。
* 吾々は教訓を学べるか、無理だよな。
* アメリカで事故や災害が起これば警察と消防隊の二つを派遣する。盗難や略奪をしないように互いに監視させるわけだ。
* あの金庫には何が入っているのかしら、開ければ所有者がわかるのに。
* 開けたってわかるとは限らないよ。暗証番号仕様のもあるし。
* いや最近はデジタルもある。デジタルは電池が切れたら開けられなくなる。
* オレは鍵屋だが、カトリナの経験からすると浸水した金庫はダメだ。防水でないと錠も腐って開かなくなる。
* これは人種差別よ、誰がニュースにアップしたの。アメリカが惨めに見えるだけじゃないの。
* 日本でも盗みはあったと聞いているぜ。戦前の残虐行為を思い出せ。
* 私は日本に数年いたけどいいことばかりじゃなかったわ。イギリスの女性が殺されたの覚えているでしょ。

ユーモア溢れるコメントにつられて二時間ばかり読み進んだ。良いも悪いもひっくるめてアメリカ人の開けっぴろげな発言がおもしろい。表現の自由を満喫している。ふと見ると書き込み件数は七百を超えていた。二時間で二百件、アメリカ人の琴線に触れるところがあったのだろう。

五月十四日、近くの大学でJAPAN DAY があった。日本語クラスの学生が募金運動のため立ち上げたそうだ。素人づくりの飾り付けが微笑ましい。
そこで八十歳過ぎの女性に会った。
「主人が日本からはじき出されたので一緒にこちらへ来ました。日本は大変ですね。外国が攻めてきたらどう対応するのでしょうか。だからアメリカはいち早く空母を派遣したのでしょうね。政府と東電はダメです。
お坊さんですか。この歳になると一神教はいやです。ギリシャ神話の方が身近に感じられます。周りの自然に感謝するのが性に合っています。アニミズムと言うんですか。死んだらどこでも散骨してもらえばいい、無宗教です。
天さん、天皇陛下のことですけど、うちでは天さんと呼んでいます、メッセージをテレビ放送されました。昭和天皇の玉音放送以来だそうです。略奪が起こらないというニュースも聞いています。アメリカ人は驚いています、なぜかって?日本人はプライドがありますでしょ。」

映画時評(10)

映画時評(10)   二つの東京物語

「東京物語」が世界一の映画だと発表されたのは21世紀に入ってのことだったと記憶する。小津安二郎監督の名を知って、日本最高の監督は黒澤明ではないことに驚いた。すぐDVDを手に入れ小津作品に触れはじめた。
原節子、笠智衆主演だが、親子の絆の断絶、家族の崩壊を予兆させる利己主義、戦後の貧しい日本、尾道ー東京の列車旅行など、西洋人が好みそうな映画である。それでも貧しい建て付けのアパートや古材製の机を並べた事務所には清涼感が漂う。巨匠は美を追求せずにはいられなかった。
1953年の小津作品から50年経ってほぼ同じシナリオで「東京物語」がリメイクされた。作為的で汚いと感じた。松たか子、八千草薫、宇津井健だが、ハリウッドドラマ仕立てに改変され、演技は原作の真似ばかり。シワのない老婆、深みのない結末、違和感ばかりが残った。
感想をあるブログに投稿したところ、趣旨に同意した上で山田洋次監督はサヨク共産党だから映画の質が悪いのは当然だという返事だった。サヨク思想が文化を破壊する事実に目を開かされた。共産主義には美を創造する力も動機もないという。ボリショイバレーの「白鳥の湖」が汚い理由も同じだろう。日本の映画監督はサヨクばかりだというが、それなら偏見と断罪に醜悪、日本悪玉の物語しかない。日本にはサヨク思想が蔓延して居る。
愛染かつらの日本を取り戻すのは容易ではないが、小津安二郎はわれわれ日本人に、回帰すべきもの、護持すべきもの、創造すべきものを戦後の混乱を描きながら映像で残してくれた。

戦後の日本が汚くなったのは残された写真でわかる。明治の男女は内面の叡智が浸み出したような顔と姿勢をしている。アイドルと呼ばれる現代の若い女性達には内智があるのか心配になる。勉強はしているし真面目だ、潜在能力に遜色はない。しかしポイントがずれている。個人主義拝外思想に汚染されている。
アメリカ占領軍は日本を否定し悪玉と断罪した。では何を肯定し称揚したかといえば、外来文化、外来思想、外来宗教だった。特にアメリカの華美な文化だった。香淳皇后の実家はキリスト教の聖心女学院になった。日本古来の思想や歴史を研究する学者は大学から追われた。暴力、セックス、革命、断罪映画が次々と作られた。人々はしだいに外来の異質文化に狎れていった。
中曽根内閣の官房長官は後藤田正晴代議士だった。田中角栄の懐刀でカミソリ後藤田と呼ばれた。彼は警察庁長官を務めた経歴の持ち主だった。悪人を捕まえ懲らしめる警察のトップなのだ、悪者を退治してくれると誰もが期待した。
ところが任期中に悪を退治する場面はまったく無かった。日本はそれほど平和で安全なのかと安堵した。
しかし日本は安全だったのだろうか。日本人拉致を北朝鮮が認めた2002年九月十七日以降、さまざまな裏話が報道された。どうやら警察は北朝鮮工作員による拉致を突き止めていた。ところが上層部に報告すると握りつぶされたようなのだ。警察は正義のために働かなかった。トップは警察庁長官である。関与が疑われた朝鮮総連はそのまま、悪人と悪組織はやりたい放題だ。清明な社会が現出するはずはなかった。
今も本名や国籍が隠されるケースがよくある。犯罪の実態が明らかにされないからどう対処すべきか分からない。国会議員の二重国籍問題が発覚した時、国民は大騒ぎしているのだから何らかの解決策が示されると期待した。ところが安倍内閣は何の見解も出さず、何もせず問題は一つも解決されなかった。なぜだろうか。オーストラリアが直ちに法改正を行なったのと対照的だ。
安倍晋三の「日本を取り戻す」は歯が浮くような標語かもしれない。いつまで経っても理念と具体策を示さなければ嘘つきと言われても仕方がない。そして日常的に争いが起き混乱の中で人々の顔から笑顔が消える。
最近、安倍首相は青少年の未来のためにと言い始めたが、共産主義者の言葉に似ていないか。共産党議員は理想とか未来とかばかり言っている。自分発の内的な実績がないから、事実ではない外国発の抽象的な言葉しか唱えられない。

日本を取り戻すにはどうしたらよいか。われわれは、文明、文化の積み重ねである、かつて在った美と美を作った心を学習し、習得し、実践し、洗練し、そして次世代に伝えるべきだ。それが日本人が日本人に成ることだ。
具体的には教育勅語、十七条憲法、古事記などに触れること。万葉集や源氏物語、古今和歌集や平家物語など、日本人自身が作ってきた遺産に親しむ。
仏教は外来思想であるが聖徳太子が取り入れられた知恵を尊重しよう。日本語は論理的な徹底性がない。法華経、華厳経、大智度論、正法眼蔵などを読めば日本語の欠点を克服できる。仏典を学習するにつれ、智慧の深さに感動するだろう。
思想だけでなく身体を使っての実践も必須条件である。武術、音楽、坐禅などが日本人を作ってきた。昔の日本人には手や指の動き、足や身体の所作をマスターした人が多かった。その結果が美しい日本となって顕現した。

糖病記(3)

糖病記(3)

「母が死んだ、九十歳だった。生きたい死にたくないとずっと言っていた。病院に見舞いに行った時もう死ねと言った。
最後は二十日間何も食べてなかった。食物を取れないから血を薄くする薬とともにブドウ糖を注入していた。それでは体力が持たない。体力維持のためには鼻からチューブを通して栄養を送るしかないと医者が言った。
母は隣の病室で鼻からチューブで栄養補給されている患者を見て、そこまでして生きたくないと観念した。投薬を断ったら数時間後に stroke を発症して亡くなった。」
最愛の母に死ねと言うのは、英語ではそれ以外の表現方法が少ないと言うことかもしれない。そう思いながら淡々と説明してくれたジョンに感謝した。

昨年九月に退院する間際、医者が、「十年生きたいか?」と聞いた。キョトンとしていると ”Say Yes.” と続けた。ハイと答えなさいと言うことだが、わけわからぬまま “Yes” というと一仕事終わったような安堵感が表情に表れた。
狐につままれたような問答だったが、ジョンの説明で理由がわかった。現代医学の常識では、基礎体力があれば十年は生きる。 stroke の発症があれば応急処置し、血液を薄めて発症をコントロールする。何百万の症例と科学技術の進歩で、統計的に人は九十歳頃まで生きる、そこまでは当院で手当しますということだろう。

突発的な発症は小脳へ栄養供給する血流が阻害されるからだろう。そこは動脈から毛細血管に枝分かれしている。さらさらした血は通るが、血糖が大きな塊になると蓋をしたり流れを邪魔したりする。甘い血糖が毒になる。
歩くのが苦痛になり起き上がるのが辛くなって回復はないと見極めたら、薬を止めアイスクリームや甘いコーラを頼む。そして睡眠薬を飲んで眠る。ジョンの母は死に方を教えてくれた。脳卒中の全体像がわかり安心した。

糖尿病とされる患者は血液中に糖分が多い。糖分は普段に燃やされるから体温が高い。生命を燃焼してやがて燃え尽きる。人間最後は死を迎える。
糖分が少ないと体温が低いだろう。低体温の人は癌になりやすいそうだ。どちらで死にたいかという問題でもある。