糖病記(3)

糖病記(3)

「母が死んだ、九十歳だった。生きたい死にたくないとずっと言っていた。病院に見舞いに行った時もう死ねと言った。
最後は二十日間何も食べてなかった。食物を取れないから血を薄くする薬とともにブドウ糖を注入していた。それでは体力が持たない。体力維持のためには鼻からチューブを通して栄養を送るしかないと医者が言った。
母は隣の病室で鼻からチューブで栄養補給されている患者を見て、そこまでして生きたくないと観念した。投薬を断ったら数時間後に stroke を発症して亡くなった。」
最愛の母に死ねと言うのは、英語ではそれ以外の表現方法が少ないと言うことかもしれない。そう思いながら淡々と説明してくれたジョンに感謝した。

昨年九月に退院する間際、医者が、「十年生きたいか?」と聞いた。キョトンとしていると ”Say Yes.” と続けた。ハイと答えなさいと言うことだが、わけわからぬまま “Yes” というと一仕事終わったような安堵感が表情に表れた。
狐につままれたような問答だったが、ジョンの説明で理由がわかった。現代医学の常識では、基礎体力があれば十年は生きる。 stroke の発症があれば応急処置し、血液を薄めて発症をコントロールする。何百万の症例と科学技術の進歩で、統計的に人は九十歳頃まで生きる、そこまでは当院で手当しますということだろう。

突発的な発症は小脳へ栄養供給する血流が阻害されるからだろう。そこは動脈から毛細血管に枝分かれしている。さらさらした血は通るが、血糖が大きな塊になると蓋をしたり流れを邪魔したりする。甘い血糖が毒になる。
歩くのが苦痛になり起き上がるのが辛くなって回復はないと見極めたら、薬を止めアイスクリームや甘いコーラを頼む。そして睡眠薬を飲んで眠る。ジョンの母は死に方を教えてくれた。脳卒中の全体像がわかり安心した。

糖尿病とされる患者は血液中に糖分が多い。糖分は普段に燃やされるから体温が高い。生命を燃焼してやがて燃え尽きる。人間最後は死を迎える。
糖分が少ないと体温が低いだろう。低体温の人は癌になりやすいそうだ。どちらで死にたいかという問題でもある。

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