糖病記(5)

糖病記(5)

左足の手術が月曜日の夜中、退院が水曜日だった。金曜日に隣町の診療所に来るように言われた。包帯を取って看た医者がびっくりした顔をした。事後経過が想像以上に良かったらしい。新しい包帯を巻いて、月曜日に別の医者に行くように言った。包帯は Xeroform 湿布薬+ガーゼであった。
月曜日に再検査。そこでは検診のたびに傷口の写真を撮っていた。記録に残るから医者もごまかしができない。Xerofom使用で後は自分で包帯を取り替えろ、来週の水曜日に再検査すると告げられた。シャワーを浴びたら石鹸で洗い、処方された薬を飲め。ビタミンや魚のタンパク質を摂れとアドバイスされた。
風呂に入るとき、左足はビニール袋をかけて水に濡らさなかった。Infection 感染症を心配するといいながら、素人に普通の石鹸で洗えという。日本人でなかったらそのまま医者の言葉を鵜呑みにしていただろう。シャワー水から感染する可能性は高いだろうに。
歯医者の勧めで過酸化水素水 Hydrogen Peroxide を買った。バイ菌にあったら即座に気泡が出て殺すという。包帯交換の度に消毒した。退職した看護婦に偶然会うと、痛み、腫れ、熱、感染さえなければ大丈夫だと励まされた。

松葉杖を初めて使用することになった。左足に圧力をかけてはいけないからで、病院で歩く練習をした。平地はいいのだが、階段や滑りやすいところは要注意だ。うちには階段がたくさんある、松葉杖で上下できるか。退院した日は這って二階まで行くと決めた。二階へたどり着いたものの松葉杖なしでは立ち上がることが難しいと悟った。結局室内でも松葉杖に頼ることになった。
松葉杖は外から見ると脇の下で体重を支えている。ところがあすぐに脇が痛くなる。ある人が両手で突っ張って歩くのだと教えてくれた。正しい楽な使い方がわかるまで時間がかかった。松葉杖ではコーヒーカップ一つも動かすのが難しい。冬なら薪を運び込まなければならない。夏に起こった事故に感謝した。

初めは出血が多かったが、二週目から目に見えて血が出なくなった。皮膚を切った部分の早い再生を祈った。三週目、両足を見比べると左足に血がたまりむくんでいた。かかとで歩くのを心がけたのだが、訓練のつもりが、体重の偏りなどで圧迫ストレスがたまる。そこにリンパ液が修復のために集まるのが原因だろう。足に荷重をかけないように松葉杖をせっせと使用した。
包帯はできるだけ使用しなかった。人が考える治療法は正しいかどうかわからない。湿気の多い南洋諸島なら、海で泳いでいる間に治る類だろう。正道は内外の自然の治癒力を信頼することだ。
六月二十六日抜糸。七月十日にもう来るなと言われた。包帯を取って放り出された、三十八日目だった。かかとでぺたんと立てないのは、内側はまだ完治していないということか。歩行訓練は自己責任だ。

五週目になって急速に左足が軽くなり始めた。治るとは何かが体感できた。十代だったら三週間で治るのではないか。二十代なら四週間の怪我だろう。五週間かかったわけだが、医者も看護婦も包帯を解くたびにびっくりした。薬は飲んでいるかと問われたが、気がついたら飲んでなかった。無薬だったから肉体が正常に復旧作業したと思っている。

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