自然食と頭痛(2)

     自然食と頭痛(2)        01/28/2012

  ボブのおかげで野菜と果物以外は買う必要がなくなり、安上がりの自然食生活を満喫した。自然食のパスタを食べると腹がスッキリする、通じがよくなる。健康生活と運動を勧める本には、自然食品の原則は腹に食物を長く滞留させないことだとあった。排泄を早く済ませれば細菌が繁殖する時間が短くなる。腐敗時間が短いから健康になるというアイデアである。
  悪者、邪魔者を見つけたら排除する。どこもかしこも清潔に綺麗にすれば問題は起こらないという目論見だ。それで腸内で消化されない繊維の多い食物を摂って滑りをよくしようと考えた。サラダ、果物からジュースまでいくら繊維が含まれているか表示されるようになった。グルテンも消化されないから排泄促進の目的に叶っている。自然食品のパスタは濃い褐色でいかにも強者に見える。
  細切れに切断されない繊維やグルテンはどんな影響をもたらすか。腸壁を擦り続ける。繊毛が小腸壁を守っているのだが、それがこそぎ落とされ、一層の細胞膜だけになる。そこをさらにこすられると細胞膜が破れ血管が露出する。出血すると同時に血管内へ未消化の成分も流入する。
  最初の人工的な癌は第二次大戦前に日本人が作った。そのときはマウスの皮膚をこすり続けたという。初めに読んだ本にはストレスを与えたと抽象的に書いてあった。当たり障りのない表現で何をしたのかわからなかった。実際には皮膚を擦っただけだった。必要のない圧力や擦過が加わったことをストレスといった。
  人の皮膚をこすると血が出る。同じことが小腸内壁で起こっていた。こすり続けて損傷がひどくなったら潰瘍になる。治らなくなったら癌だ。ボブはその直前段階まで経験した。小腸壁の損傷が頭痛の原因だった。
  小腸の壁はこうなっていると図に書いて説明し始めたときは頭痛と腹となんの関係があるか半信半疑だった。腸と頭が繋がっているとは普通は想像しない。血は全身を巡っているのだから頭痛だけに症状があらはれるというのも不思議である。あり得ないことだろうと思ったのだったが。
  自然食が続いてしばらく経つと、なんだか小腸が重くなったなと感じるようになった。そのときたまたま濃いカレーを一口摂った。とたんに頭頂の左側がずきんと痛んだ。ボブが言った頭痛だ。怖くなって食事を中止した。あっこれだと察知したので慌てずにすんだが、同じ恐怖を経験した。
  ボブの場合は原因も結果もわからず食事のたびに頭痛がした。食事が恐怖になる。だんだん痩せていった理由だ。食事が原因なら、自然食品も毒食品と変わりない。ずきんと頭が痛いのは神経が叫びを挙げたからか。
  指圧所で経絡図を見たことがある。腎臓線や脾臓線や心臓線とかあって、指先、体幹、足のつま先まで繋がっていた。ただし絵を見ただけでは経絡のつながりは実感できなかった。実際に勉強したり指圧したりしなければ奥深さは解らないだろう。いつの日か、小腸の不具合が頭痛になるメカニズムを経絡を追うことによって理解できるかもしれない。
  アメリカでは戦前の禁酒法が有名だが、悪いものがあったら国全体で一律に禁止しようとする。その結果禁酒法が大犯罪と無法地帯を生み出した。戦後は禁煙運動である。それでも肺がん肺病は減らない。悪者を退治断滅する思想だから当事者は善人だ。ただし善悪の因果は簡単に決まらない。
  自然食運動は良いものだけを勧めている。悪を糾弾するのでなく善だけを勧める。ずいぶん進歩した、全面的に信頼できる思想であり、生活方法だと賛同していたのだったが。要するに、自然の摂理に一律や徹底の思想は馴染まないということであろう。

「よかったら食事に来ないか。ジャガイモ、玉ねぎ、人参なら食べられるだろう。」
「じつは一昨日、ジャガイモはダメだと解った。ずっと頻度は減ったもののときどき頭痛がする。薬を服用すれば仕事ができる程度には軽症になっているのだが。原因は高血糖だった。消化の良い炭水化物を摂ると血液中の糖度が一気に上がる。濃い糖分が頭痛を起こす。ジャガイモの炭水化物は吸収されやすい。だからジャガイモも食べられなくなった。こんどジャガイモ粉を持っていくよ。にんじんも糖分が多い、甘いだろう。いまどんな食品が糖分が多いか調べている。炭水化物は敵だ。糖分が少ない炭水化物だけが許容範囲だ。
糖分が多すぎるとインシュリンが出て血糖値を抑える。余分な糖分は肝臓や脂肪に回して蓄える。その機能が働かなくなった。年齢のせいだろう。
栄養士に炭水化物を抑えて肉を食べるように言われた。長い間タンパク質を摂っていない。基礎タンパク質が足りない。バランスが大事になってきた。」
「肉食人種の食事に近くなってきたな。これからはハンバーガーだな。ビッグマックに戻った?」
「いやミンチ肉は酸化プロセスを促進させるから体に悪い。刻んでる間に肉が酸化するんだ。自然食で育った鶏や魚の肉でなければ安心できない。卵も自然食育鶏のなら食べることにした。それから豆類もおすすめだ。アメリカでは豆の種類が多い。メキシコやペルー原産の食物に助けられることになった。野菜ばかりでは基礎タンパク質は取れないからね。」
「 ”How to lose weight by eating more’ という雑誌を読んだことがある。刺激的なタイトルに惹きつけられた。夢中で読んだ。中身は豆類の料理が中心だった。アメリカの理想的な食事って、ひょっとしたら豆料理に収斂していくのじゃないだろうか。アメリカ原産種を摂ればいいだけなんだから。」

  瞬間的な頭痛を経験した後は、一ヶ月間自然食を摂れなくなった。頭痛は恐怖だ。カレーや胡椒はダメ、玄米粥主体の食事になった。栄養があるし腹持ちする。若い頃お寺で聞いた「おかゆ十徳」を思い出した。